駟馬園盛砂の輯めける狂歌著聞集へかきて出たる二条
○駟馬園盛砂の輯めける狂歌著聞集へかき
て出たる二条
わかとも何かしが家にいと大きやかなる桜の木あり花
さくごとに其わたりの友たちあつまりきてうたよミ詩つ
くりなとして見はやしぬされと此あるしハ下戸にてあ
りけれハかゝるをりにも酒を禁すること禅寺なとのお
きてのやうにてたゝいつもいつも牡丹餅をのミ調して出し
けれハ人皆ノ某の花見ほたもちとておかしきことにそいひ
あへりけるさるを其隣の寺に?重のありけるか二月はかり
のころよりおのれかの寺にまうつることに何かしのもとなる桜
ハ今いくかありて咲出ましなととふことたひたひなりさてハ
こやつ(?)哥にてもつゝしりいでんの心にやといとゆかしくおほ
えて何かしのもとの桜は楊貴妃とかいへるなれハ大かた
三月の十日はかりならてハさきも出じわぬしさはかり
に花を待こかるゝとならハ此ころわかそのゝひかんさくらこそ
さき出たれこれきて見るかしといへはいなわれハ楊貴妃
にまれ彼岸にまれさくらハさのミなつかしとも思う給へ
られすたゝかの何かしの牡丹餅こそゆかしうハおほえさ
ふらふなれといらへけるにそいとあさましうおほえし
世の諺??花より団子とかいへるハかゝるしれ人のうへにや
といとをかしくて
玄宗ハとまれ桜のきひよりも
もちのほたんをしたふわらハへ
ある日わか友某のきていふやう此ころ隣なる人のもと
へ京より白拍子め???きて侍るとかいさ給へもろと
もに見侍らんといへはさらハとてうちつれてゆくにある
じやがて酒肴なとくさくさてうじ出つゝかの女ともなひ
出けるに都人としられて色白うあてになまめいたり
さて何とかやいへるを舞けるに??もろこしの飛燕とかいへる
もいかでかうハと思ふまていとめてたう舞かなてたりかく
て女舞にいたく心いれたるさまにて頭うちふりけるとき
いかにしてかさしもめでたうゆひつかねたる髪のはたと落
てたちまちかしらまろうなる法師になりけれは人々
あさミ笑ふことかきりなし???顔うちあからめてい
と恥かしとおもひたるおもゝちなれと舞ハまだなかば
をも過ざれハさてのミやむべくもあらすまた落たる
黒髪をとりてかうむるべききいとまもあらさればすべなく
てまろらかなるかしらをさながら舞をハりぬむかしハ
田楽とかいひて法師の舞けることもありけるとかきゝたれ
どかく???えんだちたる道ほうしのまふことはいまだきゝ
も侍らすとて人々どよみあへりさてかゝることハいかなるゆ
ゑかととふに此女ハはやう京祇園わたりの白拍子なる
を十七??年病によりてかしらおろしねぎことのあり
て四国を巡礼にハ出たちぬとぞさるを道のほとにても
尚病のおこりなとしてたくばへもちたるものをも今ハ
残りなうなしたればいさゝかにてもさるたよりにもとて
法師ながらかづらとかいへるものうちきてかくハものし侍る
なりとかのあるしぞかたりける此ものかたりをきゝていと
ほしくかつはをかしくおほえて
世を捨し尼のまふのはやはりかの
佛のあとをしたふなるへし
*狂歌著聞集 九大コレクション(九大附属図書館)でみると編著者は「石川雅望」、国立国会図書館サーチでみると「司馬園(編)」となっている。本HPの手鑑2-28-2の雅望書簡に「著聞集一之巻出来仕り二三ノ巻二月差出之由にて御佳作之牡丹餅の趣向おもしろく承り候」という記述が見られる。おそらく雅望監督のもと盛砂が編集していたものであろう。
この作品にみられる如く狂歌著聞集は狂歌にまつわるエピソードの集成である。春足さんお得意の分野で雅望が「牡丹餅の趣向おもしろく承り候」と書いているように二話ともよく出来ている。
*佛のあとをしたふなるへし 平家物語「祇王」に登場する白拍子。祇王祇女という白拍子の姉妹が平清盛に愛された後捨てられて嵯峨野に出家する、その跡を継いで清盛に愛されたのが佛という白拍子。しかし佛もやがて捨てられ祇王祇女を慕ってあとを追うてくるという話。
*解読者付けたり 「何とかやいへるを舞」とは地唄舞の名曲「黒髪」であろう。
五月はかりをとめともの田うゝるとて謡ひのゝしるをきけは…(俗を雅に歌う例)
○五月はかりをとめともの田うゝるとて謡ひ
のゝしるをきけはえもいはす猥りなること
のミなれどさすかにをかしとおほゆるふしも
ありけれバ例のふかきこと葉にかへつ
もとの謡
前ナル小河ニ摩羅ガ九本ナガレタ若イモノハイツモ
見ルマヅ婆ゝガ出テ見ヨ
かへたる歌
春されハ桜花ちり秋されハもみち葉ながる白波の
龍田の河に桜にも紅葉にもあらて松茸に似たりし
ものゝかき数ふ四つと五つと水上ゆなかれきにけり是
をしもいやしきものと人皆の出て見けるを栲領の
白髪きたり八十にもあまる姥の杖つきて出ていへら
く若草のわかき人らハかゝるものハ夜ことにも見朝こと
に見てしあめれハ愛らしきことハあらじ我如き老
たるものぞまづいでゝ見む
反歌
いきどほる心もはれて老の身も
まづぞゑまるゝ此もの見れは
*かき数ふ 「かき」は接頭語。指折り数える。数える。(旺古)
*春足さんの言う「俗なるものを雅に歌う」典型例。
?ころおそくつの絵巻とも有よし見ける中…
○?(此?)ころおそくつの絵巻とも有よし見ける中
何人のものしたるかハしらねとはしかきのいと
おもしろくおほえけれハかきつく
おそくつの絵かけりしこともろこしの国にハ漢の
代よりありとかこしにハよしのふの朝???きに見え
たるなんそのはしめにそありけるまたふかき上
手とものかきたる?とものにもしるせれとも世に
伝ハらねはいかなる筆のあとゝも今ハしりかたう
なむたまたま何かしのいつきの御うへをうつせるもの
とて人のもてるをみつるにそこらの人の写しうつし
して?てにハひ?ううつしもしつるにやいたくつたなく
て見てあるべうもなし此一まきよかける人ハたれとも
しらねとも此ころのものなからあやしうたくみに
書なしつれハ一たび見てんにハ年ころおこなひすま
したる老法師なりとも?さにこゝろをうこかさつ
らめや唯まめやかもののまことのよりいたくおほき
中?なるハゆゑあることにこそもしもこと国人の見まし
かハやまと人のしはみなかりとやおもひなましと
うちゑまるゝはや
*最後の一行は次ページの最後の行が映ったもの(本ページ最後のところで紙が切れています)
*おそくつ 男女の秘戯を描いた絵。古くは〈おそくず(偃息図)の絵〉〈おこえ(痴絵,烏滸絵)〉といい,〈枕絵〉〈枕草紙〉〈勝絵(かちえ)〉〈会本(えほん)〉〈艶本(えんぽん)〉〈秘画〉〈秘戯画〉〈ワじるし(印)〉〈笑い絵〉などともいう。(世界大百科事典(旧版)内の偃息図の絵 【春画】より)
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