刊本・自筆稿本等

「俳諧歌五十首」と題する春足自撰狂歌集

撮影:徳島県立文書館(以下同様)

癸巳季冬撰
 俳諧歌五十首


*癸巳年 安永二(1773)、天保四年(1833)
*次ページ以降、狂歌の頭につけている○○及び○、省は春足さんの自己評価と思われる

  都立春
さほ姫も京女にハはつかしと
霞の衣をかつけてやくる
  野若菜
家のうへ名のらさねとてわかなより
女のしりもつめる春のゝ
  其二
わかなをとさけて出にし籠にけふ
おもハぬ雪をつみてかへりぬ


さほ姫も京女にハはつかしと/霞の衣をかつけてやくる
*かつけてやくる 「かつ(く)」 すっぽりかぶるの意。春のシンボル「さほ姫」も京女の美しさにはかなわないから霞の衣をすっぽりかぶって来るのだろうか。
*さほ姫 佐保姫(さほひめ)は春をつかさどる女神である。秋の女神である龍田姫(立田姫、たつた姫)と対置される。(wiki)

家のうへ名のらさねとてわかなより/女のしりもつめる春のゝ
*万葉集巻一の一「籠もよみ籠持ちふくしもよみぶくし持ちこの丘に菜摘ます児家聞かな名告らさねそらみつ大和の国はおしなべてわれこそ居れしきなべてわれこそませわれこそは告らめ家をも名をも」を踏まえる。つめる」に「摘める」と(お尻を)「つめる(つねる)」を掛ける。

わかなをとさけて出にし籠にけふ/おもハぬ雪をつみてかへりぬ
*若菜を摘もうと籠を提げて来たのに思いも掛けず春の雪を持って帰ったことだ。

  鶯
竹の杖梅の花笠?行せん
谷の戸ぬけて出し鶯
   かくよめることハこその春より
   ぬけまゐりといふことのいみしう
   はやりけれハなり
  野鶯
雪間なるわかなの外におもほえす
ほり出しものゝ鶯もきく
  月前の梅
おもハすも月の鼠をいれてけり
梅かゝゆゑにまたもさゝすて
  梅風
花にいむものともしらてとこ春も
つれたちありく風と梅かゝ
  雪中梅
もし枝のをれもやせんとわか杖を
しはしハ梅にゆつる雪の日


雪間なるわかなの外におもほえす/ほり出しものゝ鶯もきく
*「(若菜を)掘る」と「掘り出し物(思いがけなく手に入った珍しい品)」を掛ける。

もし枝のをれもやせんとわか杖を/しはしハ梅にゆつる雪の日
*雪のため梅の枝が折れるのを気遣い、杖を支えにしたことだ。

  行路柳
(省)ゆきかよふ人のさハりて春風の
たえまもたえすなひく青柳
  行路柳
しはしすふたはこのほかに青柳の
けふりもそらにふける春風
  月前柳
おなし江にかけをうつして朧夜の
月にもみのをきする青柳
  吉野花
○○ふるしとてわらハゝわらへよしの山
雪といふよりほかはしら雲
  嵐山花
○○あらしよりくたす筏ハ猶にくし
ちりうく花をまたもちらせは
  人々とともに眉山の花を見て
人ハみな老をわすれて見る花に
なとてましろになれるまゆ山


しはしすふたはこのほかに青柳の/けふりもそらにふける春風
*たはこ 煙草 この歌???

ふるしとてわらハゝわらへよしの山/雪といふよりほかはしら雲
*「しら」に「白」と「知ら」をかける。このシャレが古いと笑うならば笑え。

あらしよりくたす筏ハ猶にくし/ちりうく花をまたもちらせは
*「あらし」に嵐山の「嵐」と気象の「あらし」とを掛け、花を散らす「あらし」より嵐山から下す筏の方がなお憎い、なぜなら川面に散り浮く花びらをまたも散らすから。この狂歌秀逸。

人ハみな老をわすれて見る花に/なとてましろになれるまゆ山
*眉山(びざん) 徳島市中央部にある標高二百九十mの山。 外の人は皆、老いも忘れて桜の満開を見ているのに「眉(まゆ)の山」はどうして自分だけ眉を真白にして(年をとって)いるのだろうか。

  千里亭のもとより花暦といふもの
  をおくりおこせけれハ
またさかぬ花にこゝろをちらす哉
よしのはつせの春をおもひて
  遊女情春といふことを
(省)傾城の別れをしむもことわりや
けふゆく花は千金の客
  三月に閏のありけれハ
またさらにさくらさくらとうたハゝや
やよひに月のをとることしハ
  新樹
きのふきてしら波ときし花もけふ
ちりてみとりのはやしとそなる
  夏艸
藤袴なともましるかふみこめハ
こしのあたりをなてる夏草
  童蛍狩
わかものにいなわりものとうなゐらの
なかぬほたるをはいあうてなく


傾城の別れをしむもことわりや/けふゆく花は千金の客
*傾城が今日散る花を惜しむのも当然だ。花は千金をも落としてくれる客同前だから。

またさらにさくらさくらとうたハゝや/やよひに月のをとることしハ
*今年は閏年で三月が二回あるからいつもの年より倍、うかれることができる。

きのふきてしら波ときし花もけふ/ちりてみとりのはやしとそなる
*??

藤袴なともましるかふみこめハ/こしのあたりをなてる夏草
*夏草の中に踏み込むと腰のあたりまでなでてくれるのは藤「袴」が混じっているせいか。

わかものにいなわりものとうなゐらの/なかぬほたるをはいあうてなく
*うなゐ 髪をえり首のあたりに垂らす年頃の子ども。七、八歳くらいの子ども。(旺古)
*ばいあうて 奪い合って。ばいあい(徳島方言で「奪い合い」のこと)

  船中夏月
なかめにハあきハなけれとかけうつる
月は秋なるふねのすゝしさ
  雨後夏月
かみなりもはなしハうそとうたかひの
はれぬほとはれわたる月かけ
  樹下納涼
○○風そよくならの木かけハ夏のなき
はかりかあきもあらぬすゝしさ
  秋艸
女郎花風ふくのへは萩のミか
すゝきのほとも見えてゆかしき
  月
こは雪のふりもやするとたぬきより
月のうさきに化されにけり
  海月
○○八十神ハいかにいふともうなはらの
しほにはいるな月の兎は


なかめにハあきハなけれとかけうつる/月は秋なるふねのすゝしさ
*眺めには秋の気配はまだないが、川面に映る月影はすっかり秋で涼しいことよ。

かみなりもはなしハうそとうたかひの/はれぬほとはれわたる月かけ
*「わたる」に「晴れわたる」と「渡る(月が運行する)」をかける。

風そよくならの木かけハ夏のなき/はかりかあきもあらぬすゝしさ
*風がそよぐ楢の木陰は夏ばかりか秋もないほど涼しい。

女郎花風ふくのへは萩のミか/すゝきのほとも見えてゆかしき
*「ほと」に「程」と「ほと(女陰)」を掛けるか?

八十神ハいかにいふともうなはらの/しほにはいるな月の兎は
*「稲葉の白兎」伝説を踏まえるか?神々がどのように勧めても海水には入るなよ。月の兎よ。

  月下酒
○○月にねる此しれものとたちよりて
見れはあきたるとくりなりけり
  また
月を見てのむ盃をかそふれは
とくりもあきのもなかなりけり
  竹間月
吹上てわれには見せよみすになる
竹の葉こしの月の美人を
  狂歌六哥仙のくちにものす
  とて秋夕の歌飯山亭のこひけれハ
花もみちなきはかりかハ?こめて
とまやも見えぬ秋の夕くれ
  夜の鳥
かけうつる月の都にさわくなり
むかし平家をおとす水鳥
池にうつる月のかつらハ呉剛より
をしみ剱のはにそきらるゝ


月にねる此しれものとたちよりて/見れはあきたるとくりなりけり
*この明月を堪能しないで寝ているとは何たる馬鹿者!と思って近づくと(月を堪能したあとの)空き徳利だった。

月を見てのむ盃をかそふれは/とくりもあきのもなかなりけり
「あき」に「空き」と「秋」を掛ける。「もなか」は「最中」。

吹上てわれには見せよみすになる/竹の葉こしの月の美人を
*やがて「御簾(みす)」になる竹よ。(御簾を吹き上げて美人をチラリとのぞくように)竹の葉越しに)美しい月影を見せておくれ。

花もみちなきはかりかハ?こめて/とまやも見えぬ秋の夕くれ
*見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ(新古今集 藤原定家 三夕の歌)

かけうつる月の都にさわくなり/むかし平家をおとす水鳥
*水面に映る月影を見て水鳥が浮き足立っているようだ。平家が富士川を越えた時のように。

池にうつる月のかつらハ呉剛より/をしみ剱のはにそきらるゝ
*呉剛 「呉剛月を切る」故事による

  雪中酒
○○たれとしもしらねとゆかしわれよりも
さきに酒屋へゆきのあしあと
  また
たかあとゝしらねと雪にとめゆけハ
やかて酒やの軒はなりけり
  雪のふりける日人のもとより
  かへりて
○○つもりてはよそかと庭の?よりも
くひかたふくる雪の我?と
  待恋
君かこは帯ときてねてかうしてと
ゆめもむすはぬ待宵のとこ
  其二
わすれてハ月なき夜に月まつと
いふそ恋路のやミにハありける
  其三
ひやうし木ハとくこゝのつをうつになと
わかまつ人ハとをもたゝかぬ


たれとしもしらねとゆかしわれよりも/さきに酒屋へゆきのあしあと
*誰かは分からないがこの雪道を踏んだ先人がいるとゆかしくなって跡をたどると我より先に酒屋へ通った人の足跡だった。「ゆき」に「行き」と「雪」を掛ける。

たかあとゝしらねと雪にとめゆけハ/やかて酒やの軒はなりけり
*「とめゆけハ」は「尋(と)め行けば」の意味。前歌と同趣向。軒は軒端。

つもりてはよそかと庭の?よりも/くひかたふくる雪の我?と
*?は「間」か?
*雪の積もった我が家の庭の風情は他所の庭かと思うほど。

君かこは帯ときてねてかうしてと/ゆめもむすはぬ待宵のとこ
*あの子が来たらああしてこうして寝てと段取りばかりで、帯は解けども夢は結ばないことよ。「ときて(解く)」「むすふ(結ぶ)」は帯の縁語。

ひやうし木ハとくこゝのつをうつになと/わかまつ人ハとをもたゝかぬ
*拍子木は疾うに九ツ(夜中の十二時)を打ったのにあの人はまだ戸をもたたかない。「とをも」に「戸をも」と「十も」を掛ける。

  こは人にかハりてよめるなり
  逢恋
こひこひて逢夜のとこのうれしさハ
ふとんよりほかしくものそなき
  寄帯恋
○○繻子のおひとひて寝てからまたしゅすの
やうなはたへをしめるうれしさ
  また
その繻子にさハるやうなりしゆすの帯
ときつゝねたる君かはたへは
  また
わきも子か太鼓むすひの帯ときて
とことこまてもさするうれしさ
  寄虫恋
くちをしやくへきしらせのくものいと
こよひはほかへはつされにけり
  また
可来とのしらせの?もむなしきはハ
(次頁)よそのあミにや君かゝかれる


こひこひて逢夜のとこのうれしさハ/ふとんよりほかしくものそなき
*「しく」に「(布団を)敷く」と「如(し)く(勝る)」を掛ける。丸はないが秀逸。

繻子のおひとひて寝てからまたしゅすのやうなはたへをしめるうれしさ
*繻子 上等の織物。「しめる」に「(帯を)締める」と「(相手を)抱きしめる」を掛ける。

わきも子か太鼓むすひの帯ときて/とことこまてもさするうれしさ
*わぎも子 私のいとしい女性。(旺古) 太鼓の連想から「とことこ(太鼓を打つ音)」と「どこまでも」を掛けるか?

可来とのしらせの?もむなしきはハ/よそのあミにや君かゝかれる
*可来 おいで
*?は「虫」か?

よそのあミにや君かゝかれる(前頁の続き)
  寄雪恋
いひたつるうらみのたけもたちまちに
したをれにけり雪のはたにハ
  寄獣恋
いかにせんいもかはたへの雪にあへは
こゝろの駒そ猶まよひぬる
  寄関恋
恋路にも手かたあれかし人のめを
しのふのせきや下紐の関
  寄橋恋
むすひたる夢のうきはし中たちて
いくさもよほすあかつきのとこ
  夢に逢
逢と見し夢のうきはしあともなし
きほうしはかりねやにのこりて


いひたつるうらみのたけもたちまちに/したをれにけり雪のはたにハ
*あの子へ口舌の千回も言ってやろうと思っていたのにいざ会って雪の肌えを見るとたちまちとろーりとろけて言えなくなった。「たけ(丈と竹を掛ける)」の連想で「中途半端に砕ける」の意と「(雪のために)竹が途中で折れる」とを掛ける。秀逸。

恋路にも手かたあれかし人のめを/しのふのせきや下紐の関
*手かた 手形、パスポート。「しのふ」に「(人目を)忍ぶ」と「信夫の関」を掛ける。

むすひたる夢のうきはし中たちて/いくさもよほすあかつきのとこ
*「夢のうきはし」は夢の美称。(源氏物語)事前と事後の風情の違い。

逢と見し夢のうきはしあともなし/きほうしはかりねやにのこりて
*「きほうし」に「希望」と「擬宝珠」の「きほう」を掛けるか。前歌と同趣向。闘いの前と後。

  不二山
わか国を君子とよふハはちすにも
にるてふ山のあれハなるへし
  竹
かくはかりさゝハしけれと一とせに
一日ならてはよハぬこの君
  其二
此君も酔日のあれハその時に
ふと春秋をまちかへやせし
  松
咲花の王のまへともはゝからす
ふ?を出してたてる山松
  梅といふ女をぐしてよしのゝ花
  見に出たちける人のもとにまう
  しつかハしける
ひとしほのなかめなるへしよしの山
さくらに梅のにほひうつさハ
よし野にもこハめつらしとさたやせん
ちもとにましる梅の一もと


かくはかりさゝハしけれと一とせに/一日ならてはよハぬこの君
*この君 竹の異称。【此君】晉の王子猷が竹を愛し「何可三一日無二此君一耶」と称したという「晉書‐王徽之伝」の故事から(コトバンク)

咲花の王のまへともはゝからす/ふ?を出してたてる山松
*?は「ぐ」か? ふぐり 陰嚢(旺古) ここでは「松ぼっくり」を「ふぐり」に見立てる。

よし野にもこハめつらしとさたやせん/ちもとにましる梅の一もと
*ちもと 千本(ちもと) 「千本」「一本」のシャレ。

  何かしのもとにやとりけるにさうし
  のあなたに女とものあまたつとひ
  ゐて何をかたらふにかいと?(喧?)
  う笑ふ声のものゝきこえけれハ
  戯れにまうしつかはしける
君か笑ふほゝてふこゑにふたりをハ
さして給へといひもよらはや
  三月の末つかた安芸国より
  無外法師のとひきて何くれと
  ものかたりすとて
ことのはのみちかたらへハ春の日も
みちかくそおもふあきの人とて
  九月の羊はかり某の太夫とか
  いへる上るり会とていふことをもの
  すとて菊の絵をすりものに
  してうたよミてといひけれハ
  かの太夫にかハりて
なきふりし野末のむしも花のなの
きくをこのミに声たつるなり


君か笑ふほゝてふこゑにふたりをハ/さして給へといひもよらはや
*ほほてふ 「ほほ」と言う。笑い声を指すか。

ことのはのみちかたらへハ春の日も/みちかくそおもふあきの人とて
*「あき」に「秋」と「安芸」とを掛ける。

なきふりし野末のむしも花のなの/きくをこのミに声たつるなり
*なきふりし 鳴き(泣き)古りし 浄瑠璃は「泣き節」とも言う。「きく」に「菊」と「聞く」を掛ける。

  韓信かたに
漢王のめしよりも猶たふときは
ひやう母にえたる一杯のめし??
  関羽の図に
髯はいと顔ハ?こに似るとても
にるものハなき義膽??
  桜の枝かゝけたる女の絵に
かたけるハよしのゝ山の花ならは
ちもとも見せてくれよたをやめ
  高楼に美人をり桜あるところ
さく花のその雲間からたをやめの
ひたひのふしの見ゆる高殿
  可六歌仙題をよみける中に
  浦の浪を
(省)かけうつる不二の高嶺のしら雪を
ちらすやうなる田児のうら波


漢王のめしよりも猶たふときは/ひやう母にえたる一杯のめし??
*ひやう母 史記「淮陰侯列伝」に韓信が若かりしころ、「漂母(ひようぼ)(洗濯女)」に寄食した話がある。

かたけるハよしのゝ山の花ならは/ちもとも見せてくれよたをやめ
*ちもと 千本(ちもと)と乳元をかけるか?

(右頁は空白)
  黄金
源氏より今の女のほれるのは
黄金にひかる君にそありける
  婢女
琴を見て何そととひし下女もつい
それひくほとのつめとなりにき
  泉山上人放生験記といふものを
  著されて巻首に歌もの
  せよとありけれハ
(次頁)うをけものはなつ功徳ハそれかすむ
海よりふかし山よりたかし

うをけものはなつ功徳ハそれかすむ
海よりふかし山よりたかし(前頁の続き)
  江戸ニものしけるとき
  よしハらにあそひて
仙人の国かとそおもふ傾城の
もりをわけつゝ寝たる一夜ハ
  針業の何かしおのれをうらめること
  ありとて もとかふハきり捨にして
  其枝を今ハ手いけになす梅花
  とよミておこせけれハかへし
きらすともをれてやのかんたゝくちを
たいしにまもれとしをふる木ハ
  尾張の国津(?)嶋の里なる砂深(源?)残(州?)
  藪といふ人屏風の料のうた(?)
  こふとて 君か名は六々三十
  六哥セんゆきぬけたりなしき
  しまのみち とよミておこせけれハ
ろくろくにまなひもせねハぬけたりと
いふはおのれか性根はかりそ


きらすともをれてやのかんたゝくちを/たいしにまもれとしをふる木ハ
*針業 針業右大尽 春足さんの高弟。何か行き違いがあったか?

ろくろくにまなひもせねハぬけたりと/いふはおのれか性根はかりそ
*ぬけたり 六々 共に春足の別号。

  六根園梅をか江戸にありける時
  せうそこのおくに
  日にそへて学ひの山ハのほるなり
  身は東路にくたりたれとも
  とかきておこセけれハ
こゝろしてまなひの山ものほれかし
みねハ天狗すミかとそきく
  江戸にものしてかへらんとしける
  時師の君
  見つゝゆくふしや鳴門ハいかならん
  なこりをしさハこゝも海山
  とよミて給ひけれハ
不二 鳴門見るにつけてもおもひ出ん(す?)
たかくてふかき師の恩をハ
  きさらきのころをさなきものゝ
  つかにまうてけるに柳のいみ
  しうしけりて見えけれは
なからへてありなハ今ハかくらんと
柳のかみを撫つゝそなく
  九月十六日はをさなきものゝ(次頁に続く)


不二 鳴門見るにつけてもおもひ出ん(す?)/たかくてふかき師の恩をハ
*石川雅望は文化元年京阪の旅に出るも日野宿にて三ヶ月病臥。以来西方には旅行していない。(粕谷宏紀著『石川雅望研究』)

(前頁)九月十六日はをさなきものゝ
  七年忌にあたりてありけれハ
  そのつかにまうつるとて
ひしひしとおもひそいつるなからへハ
かみゆふほとに今ハならんと
  またおもひ人のつかにまうてゝ
雪と見しはたへはきえてたむけぬる
みつのミあとにのこるかなしさ
  時雨庵ぬれ丸のなくなりける
  をいたみて
わか?のいろさへあかくなしてけり
?のしくれたゆるまなくて
  月次の哥の??ものしけるついてに
  ?髪忍者といふことを
ふしひたひつくるむかしそしのはるゝ
かしらの雪を見るにつけても 
  枕流漱石といふことをよめと
  人のいひけれハ
河竹のなかれに一よまくらして
いしにくちをはそゝく歯磨


ひしひしとおもひそいつるなからへハ/かみゆふほとに今ハならんと
*哀傷歌 なからへハ もし生きていたらの意。春足さんは新助・さの を幼くして亡くしている。

雪と見しはたへはきえてたむけぬる/みつのミあとにのこるかなしさ
*「雪」の連想で「みつ(水)」を起こす。「みつ」は「涙」を表すか。

河竹のなかれに一よまくらして/いしにくちをはそゝく歯磨
*河竹のなかれ 「河竹の流れの身」とは遊女などの定めのない身の上(日本国大)

  婚礼のありける人のもとに
  まうしつかハしける
下紐のほの字とほの字とけてねて
むすふやこよひ長き契りを
  人の六十の賀に寄??を
六十のみゝはともあれ千世よはふ
つるの声にハしたかへよ君
  ?具亭?七十賀に翁嫗の
  図に
尉姥ときミとちとセをくらへなハ
いつれか齢高砂の松
  某の八十賀に松と竹との
  絵をおくるとて
○○とちらても君かみとりになせよかし
松と竹とのちよのよわひを
            春足
 都而八十一首
     癸巳年極月朔日撰之


下紐のほの字とほの字とけてねて/むすふやこよひ長き契りを
*下紐 肌着の上に結ぶ紐。「とけて(とく)」「結ぶ」は「紐」の縁語。
 
尉姥ときミとちとセをくらへなハ/いつれか齢高砂の松
*「高」に「(齢が))高い」と「高砂」を掛ける。

とちらても君かみとりになせよかし/松と竹とのちよのよわひを
*御祝儀歌

 惣詠八十一首 内 五首 省
   但
 春 五ツ(?)十四ゝ  夏 六ゝ
 秋 七ゝ        冬 五ゝ
 恋 十四ゝ       雑 卅ゝ
    以上七十六


解読原稿データ:haikaika-gojyusyu-script.pdf

コメント

タイトルとURLをコピーしました