書き物

春足筆 父(四代目橋本宇治右衛門)について

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-6-2

わかちゝの君ハおのれかまたなゝつ
はかりのほとよりいとひさしうやまう
のとこにのみおきふしし給へるか
つひには寛政四年五月五日と
いふ日御齢三十三にしてそうせさ
せ給ひたるときにおのれハまた
十といふとしにて何のわいためも
しらさりけれとたゝいみしうやせ
おとろへさせ給へる御おもかけのミハ
けもわすれすそありけるかう
おのれかまたおさなきほとよりも
世をさらせ給ひにけれハそのか
かせ給ひたる筆のあとゝては
たゝ帳とかいへるものにつふくと
しるしつけられたるものこそあれ
それかほかにハ一ひらのものもをさく

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-7-1

のこりてはあらさりけりさるを
此ころ皮籠とかいへるものはりてむ
とてひたすらふるきほうことも
をあなくりさかしけるにかの帳ニ
しるしつけられたる筆のあとにいと
よう似たるせうそこありいとふし
きにおほえつゝやかてひらき見れ
はこれなむわかちゝの君のは
やうみゝつからものし給へる筆の
あとにはありけるつねはさしも
したしからぬ人のかきすてたる
たにとし月へたゝるハいとなつかしき
こゝちのせらるゝならひなるをまして
こは五十とせのむかしわか父の
君の御手してみゝつからかゝせ給ひ
たるものにしあなれハいかてかめで

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-7-1

たふとまさるへきたゝなつかし
ともゆかしともいはんかたなうおほえつゝ
みるまゝにまづなみたそさしくまれ
ぬるそもくわかちゝの君ハたゝあけ
くれ家わさのことをのみいそしみ
ものせられぬとかきゝてはへれハ
手かくわさなともことさらにならはせ
給へるにはあらさめれとさすかに
かうやむことなううるはしうものせら
れたるそいともくありかたうかたし
けなきされハたゝかくてのみあり
なむにハつひにはちりほひゆきて
うせもやすらむとてやかて此帳
のうちにものしてむかししのふるくさ
はひとハなしつ時に文政十二年やよひの
もちの日かくいふハ其子の春足

語注・気付き

文政十二年三月十五日 春足が父について書いたもの。
春足の父は寛政四年五月五日、春足が十歳の時卒す。享年三十三歳。
家業にいそしむだけで格別の教養も無かったと思っていた父の手紙を反故のなかから見つけ感動している内容。この内容によって3-5-1の書簡は、春足の父、四代目遠藤宇治右衛門(橋本宇治右衛門と判明する。また同時にこの手鑑が春足によって「編集」されたことがわかる。

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