書簡

宛名・差出人共になし 内容から宇治右衛門宛て・藤井高尚書簡と判断

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-19-1

無存懸貴書至(到)来拝見先々久御様子も承
不申候処御健ニ而御文事盛之御事欣躍
不少候然ル処老拙痰咳ニ而不快且当方
祭礼前後其他役事心配之事共競御?
行届兼候条御免可被下候
一藤垣内も老衰故於右も御著述もの御相談
被成度趣承候大平翁は元来同門京ニ而も双方の
門人打込ニ互ニかけせ話いたし候事ニ而他郷とは
大ニ異成義ニ御座候但彼人は唯師説ニ耳随候人
拙子は一家之見をも立候へハ異成事も多候候御心得
置可被下候
一拙作新著之事此春三のしるべと申書三冊

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-19-1

板本出候哥文道の三ニ而御座候上方え仰遣
急々御取寄御覧被下度候道歌文の方角ヲ立候
書ニ御座候方角正ク立不申候而は無意之思??
御座候へば也甚貴?之書ニ御座候松の心文
綾集三冊今年中には(?)板本出可申候松の落葉
四冊共まだ彫残候来年中ニ可出候出雲路
日記一冊今年中ニ板本可出候大略右之通ニ
御心得今日大坂之板元書林え可被仰遣候為其
此所ニ書記候
  京錦小路室町ノ西書林
       恵比寿屋市右衛門
  大坂心斎橋安土町ノ北書林
       河内屋儀助
松の落葉と申書は六十丁も有之本四冊ニして
神祇を主とし道哥文の事共?々有?ゟ
儒仏兵家之諸道ニ渡り一ケ条ツゝ委く説示候

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-19-1

一 書物往復之事は別紙ニ所書諸国よりの並
委く書付入御覧候也
一しれもの物語御恵奉謝候古今著聞又は
今昔宇治拾遺等文例能御書?被成候事
深奉感読候
一かな文の旅路の日記其記録日記と表裏之違ニ而
御座候所三四百年已来其意を思へる人なく
鈴ノ屋翁菅笠日記を始近来之哥読之書候日記共
皆かな文の日記之様ニ非ず?土佐日記を能読??
人無之候処也
一四月ニ御出可被下??候由今年は其頃ハ浪華ニ
居たり他老拙例年二三四と三ケ月は大方
京橋之間に遊?御心得置可被下候来春ハ

撮影:四国大学 / 分類:手鑑3-19-1

伊勢詣ニ而京橋ニ而文雅不取扱候其地ノ?は
文事耳ニ候へハ明後年ニ而も京橋ニ御出被成候方
御勝手可宣候又拙老義も鳴戸一覧旁徳島え
参り度ものニ御座候先年嘉島禎蔵殿ゟ便来り
其後も一両度文通のミニ而打絶候ニ而ゟ鳴門之
方角ニ得意無之出兼徳島ニ御門人等も
御座候ハゝ彼地ニ而老拙講義ニ而も御望候様之事ニ而
五七堂も申合?請ニ候ハゝ夫ヲ名義ニして鳴門ヲ兼
京橋之帰路浪華ゟ船ニ而渡り可申候此義
御含置可被下候   老拙今年六十六歳健ハニ候へ共
          老遊は此三四年之間ニ而御座候

右は被仰下候事ニ附大略??申上候猶追々
可申承候長言

語注・気付き

○情報①藤垣内も老衰したので(春足が)著述物の校閲を依頼してきたことに対して了承した。②(高尚)は元々大平とは同門(宣長門)の間柄で京都では互いに勉学に励んだ間柄である。③ただ大平は師説にのみ忠実であるが自分は一家の見も立て彼と意見が相違することもあるので御承知置願いたい。④拙作新著之事(自分の新著の事)今年の春、「三のしるべ」という本三冊を出版した。「三つ」とは歌・文・道の三つである。この三つの「方角」(進むべき方向か?)これをしっかり立てなければ万事無意味と思ったからである。大坂の書店に注文して読んでほしい。⑤松の心綾(?)集三冊今年中に出版予定。⑥出雲路日記一冊今年中に出版予定⑦松の落葉四冊まだ彫刻中、来年中に出版予定⑧大坂版元は文中に記した恵比寿屋と河内屋。⑧松の落葉について⑨「白痴物語」受納。宇治拾遺・古今著聞集などよく読みこなしている。感服。⑩かな文の日記(東日記か?)拝読。かな日記について高尚独自の見解。注目。⑪四月ごろ(春足が)来てくれるとのことだが毎年二、三、四は大方京橋あたりでいるので会えない。⑫来春は伊勢詣での予定で京橋では文事はお休み。⑬再来年京橋へおいで下さると双方つごうよいのではないか。⑭自分も鳴門を一覧したく、もし徳島で講義等の要請があればそれを口実に出向いてもよい。 
○この文面をみると藤井高尚という人は、非常に元気な爺さんのようだ。著述も多く、諸方で講義することにも意欲的。研究の価値あり。

コメント

タイトルとURLをコピーしました