御安泰御由奉察居候
然は百人一首の思召こと
おもしろく承り候右ニ付
岳亭へ之貴書すぐに
届申上候爰ニ一ツの思はざる
事出来候ハ岳亭と福のや
大喧嘩ニ而絶交と相成候
右ニ依而私方之月並之
絵も岳亭ニハかゝせて呉るな
と申事也貴地の御企も
其通りニ而国直ニかゝせ
度よし被申候岳亭ハ
懇志ニいたし候斗福のやハ
社中の事故申分ヲ聞て
やらねはならず困り入候事也
尤此段福のやゟ貴地へ
御かけあひニ及候との事ニて候
いつれ御高案可被下候
百人一首費用之事被仰
下候右は占正へはなし置候
かれよりつもり書致くれ候筈ニ
候へ共いまた不参候参り次第
入貴覧可申候一丁ニ而金百匹
くらひより少々安くも上り可申や
岳亭事来春ハ行脚に
出候よしさすれハ御地へも罷出
可申と存候右の一条ハ決而
御存なき分ニ被成可被下候右
不和之趣ハ決而仲人等之
口入にて和睦ニハならさる事にて候
左様思召可被下候福のやか
手帋二通入御覧候御返しニ
不及候此段申上くれ候やう
福のや頼ニ付如斯御座候
猶重便可申上候以上
霜月二十九日 五老拝
六々園大人
語注
*福のや、岳亭 福廼屋内成、岳亭定岡のこと。
気づき
○①百人一首の思召(企画案?)おもしろい。粕谷宏紀著『石川雅望研究』P331によれば、「天保二年(雅望没後一年)『狂歌阿淡百人一首』(岳亭定岡画・一冊)を撰して刊行する」とある。この書簡の内容通り岳亭と福のやが大喧嘩して刊行が延びたのだろう。②出版費用の見積もり一丁につき百疋くらいと見積もっている。③岳亭、春には四国行脚、春足方にも寄ると思う。
コメント