書き物

近松門左衛門『出世景清』阿古屋(歌舞伎では「壇ノ浦兜軍記」阿古屋の一節と思われる) 筆跡は石川雅望

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-36-1

やおれあこやなとて琴をはひかさるやすらひをろハ
あとくらましゝ夫かありかをあきらけくいはんとにやと
???かさねとふこの重忠か心のそこハしらされと
あなかちに琴ひきよせつされと男のゆくかたいはんすへ
なけれはこゝろハたまことのいとゝ共にみたれぬそもむかし
枯師(?)となつけし船ありきそれか朽たるをその木もて琴に
つくりけれはえもいはぬ音をいたしてとほき里まて聞え
わたりぬとそ此琴のねいろそれにハおとらさンめれと月比
のうれたさに声(?)さへかれぬまいてこゝろたましひも身に
そはれてかいうしなへるうき舟のよるへなくたゝよふ
こゝちせられてわりなけれととかくしてしらへかきあはせつ
 かけといふも月きよしといふも月なれやかけきよき
雪のいろなからにこれる水にやとらすとうたふ重忠
みゝをそはたてつゝ聞をはりて今のこくハ花くみとかいふ
ものをおのれか身のうへにとりなし夫のゆくへしらさるよし
を唱哥にそこめたるそハとまれかくまれおのれかけきよに
あひそめしハいつの時にかいかなることのよすかにてふかき
いもせのちきりをはかはしゝととふこハ思ひ給へかけさる
ことやうなる仰せにこりさるハなにこともむかしものかたり
となり侍りてきこえんもはつかしく侍り平家の御

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-36-1

一門の栄華のさかりを花にくらへてきこえはやしゝ
春のころほひ此見たまへなれにし人は山鳥のをのなか
くしき師山をしもこえ給ひて清水なる大ひさ舟
月ことにかちよりそまうて給ふ五条坂ハゆきゝによき
ぬ道にし侍れはかたみにみえしらかひてふりはへなのり
あふとしもなく御かり衣の袖ほころひぬぬひつけて
まゐらせんなとされかゝりぬる時も侍りあるハにはかしくれ
にわひにたりかさかしてよとの給ふにもいとやすきことゝ
うけひきつふりしきる雪のあしたにいひをけの火かき
おこしつゝ空もわりなうさへまさりぬ湯きこしめせ
なとあへしらふかくてしたしさもいやまされはさかつき
とうてゝすゝむれはのみほすしりめもたゝならすこなた
にしたへはかしこにも秋萩の?くまさゝのあられおち
やすけにそふるまふめるさは月ころすしたてまつる
普門品のくとくにこそとかつかつをかミつそのかミはつか
あまりいつかの夜とかたらひあはせしもしるくこよひこそ
とうれしきにひきまくらして侍りきこれをうちとくる
はしめにてまめこともされこともこめすいひかちし侍りて
下の帯のむすひめかたくはしめをはりのけちめもみせ
侍らねはおかしき恋路に?そあん筏とたのみわたりて

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-36-1

こそ侍りしか寿永とまうすとしと成ていちはやき
秋風あらましくふきわたりてよりすまあかしとうらつた
ひしてこきゆく舟のあとなきことゆきかくれ給ひしこそ
へたての関とハなりにて侍れいまさら思ひ給へいて侍るにも
むねいたうかなしさまさりて侍りとそかたりたる

   夕方
いぬるとしのしはすよりかそへみ給ふるにはや一とせに
なりにて侍りこそことしととしをこへぬれとおとつれを
たにしたまはすさるハいかはかりのものおもひかつもりぬらん
さてなんあつしさもまさりゆきてかうさまにやせさらほひて
侍るをわきみの御目にハ御覧しいれぬにやせんやくと
??とハさらなりはりのくすしはらとりの人々にたす
けられてからうしてはかなきたまのをゝつなきとめて
侍りけふたまさかに見へたてまつれはあまえてよろつ
かたらひきこへなんと思う給へて侍るをなかなかにうきめ

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-36-1

みせつるはいかなる御こゝろにかまろにあたなるこゝろとし
侍るはふみにしりてのミおかせ給ふかうちたゝきのミして
やみたまふにや今ハたゝよわりによわりてなかはゝなき人
となりたんなりゑましき御かほををこそ見給へまほしけれ
きすくにおはすこそつらけれとかきくときつゝなきわふる
さま袖たもとにハそらにしられぬ雨のふりいてゝ衣に
逢たる玉あられにきそひて落くるにそこよなきいろ
をはぬらしそへたる

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