書簡

春足、石川雅望(宿屋飯盛)入門 文化七年(1810) 雅望の返書

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-1-1

かゝるあたりをもすてさせたま
はてふりはへ御せうそこたま
はりぬることうれしさおほかた
ならすおほへ侍り御ふみにそへ
て給ハりぬるむきなハ一はこ
ことにめつらかなる物にてとく
調しあちはひて見給へつるに
よのつねの物としもおほへ侍ら
すめこなるものともをはしめ
たかたかとしたうちしてミなミな
ミとゝをあふき奉りぬるになん
さて聞へ奉るへきハはやう
和歌の道にミこゝろをしめさせ
給ひてかしこくまねひとらせ
給へるよしは喬尚ぬしの
物語にてもつたへうけたまはりぬ
さてもこのたひの御せうそこ
のそこらかゝやきわたりてやむ
ことなうめてたきを見奉る
につけても御学さへのうるハしく

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-1-1

すぐれさせ給へることハほけ人の
しれしれしきこゝろにもさそと
ハかりおしハかりまゐらせて
いかうに感し奉りきしか
ミやひたるかたにのミなれお
はします御身にしてあさまし
うゆかみねちけたるあつま
ことのたミたるすちをさへ
くるしともおほしたらてなけの
御すさひにもうち出給へる
あはれミこゝろのおほきやかに
ひろゝかにおはしますことゝ
かへすかへすありかたういミしき
ためしになんおもう給へられ
侍るさるはつかしき御わたりに
あやしきひかことをかいならへて
御かへりなと聞へ奉らんハおそろ
しきまてかゝやかしうつめ
くハるゝこゝちし侍れとさり
とて聞へ奉らてやむへきに侍ら
ねはたゝ御しれものゝかしこ

撮影:四国大学 / 分類:手鑑2-2-1

まりハかりをりてこちこち
しきなまりすらをさなから
かいつゝけて奉るになん
        あなかしこ
五月六日    まさもち

花足君
花もなき夏の梢に/そよとふく/風のたよりそ/うれしかりける

語注

*ふりはへ わざわざ。ことさら。(旺古)
*むきなは うどんや冷や麦類。(旺古) 春足は方々へ「むきなは」を阿波土産あるいは贈り物として送っていたようだ。
*喬尚 藤井高尚のことか。もし藤井高尚のことであれば雅望は春足のことを春足の入門以前から高尚を介して知っていたことになる。高尚の書簡は本古文書中に多数あり。

気づき

○この書簡は春足が雅望に送った初めての書簡に対する雅望の初めての返書であろう。冒頭の「むきなハ」とは素麺のこと。春足が素麺一箱を送ったのである。それに対して丁寧な礼を述べている。文体は雅望お得意の雅文体。次回以降の書簡がほぼ「候文」で書かれているのに対しこれは相当改まった文体となっている。粕谷宏紀氏の『石川雅望研究』によれば、春足が雅望に入門したのは文化七年庚午(一八一〇)ということであるからこの書簡もその年の五月と思われる。

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