書き物

『狂歌続万載集』に応募した狂歌に六樹園の判が入った原稿

撮影:四国大学 / 分類:手鑑1-10-1

七ゝ
 野虫
萩見んと馬
のり出す人やある
鈴虫のこゑ
轡むしの音

八ゝ 続万載
 月
月を見て
老となりなは
其の中の死なぬ
薬をわけて
もらハむ

十ゝ 続万載
 茸狩
萩の露
雨としちらは
ミさむらひ
みかさといひて
とれや松茸

*萩見んと馬/のり出す人やある/鈴虫のこゑ/轡むしの音 この狂歌のみ「続万載」の記入なし。やや平凡作のためか。
*萩の露/雨としちらは/ミさむらひ/みかさといひて/とれや松茸 萩に置く露が雨のごとく降るならば、お付きの侍さんよ、殿に「御笠(を召しませ)」と言って取って差し上げろ。この傘に似た松茸を。【みさぶらひみかさと申せ宮城野の木の下露は雨にまされり】(古今集巻二十、東歌)による。

撮影:四国大学 / 分類:手鑑1-10-1

八ゝ 続万
(朱書)
撰集抄なとの比(ころ)にカハユシ
なと見へ候その比の俗語と
存候可愛ハおしあての
文字と存候

 逢恋
可愛いかまた憎いかと
問れてはこたへられ
さるねやのむつこと
(「愛」の横に朱書「はゆ」)

十ゝ
 寄鳥恋
水のそこまてと
契りし
ことの葉も
あなうの鳥の
しりゝ
ぬかした
(「した」を消して朱書「すか」)

八ゝ 続万
 寄神社恋
いひよれは出雲の
神のいつもいつも
そのこま犬のう
しろへそむく

*水のそこまてと/契りし/ことの葉も/あなうの鳥の/しりゝ/ぬかした 「あなたと一緒ならば地の底水の底までも」とぬかしたあの睦言はうそであったか。(「あな憂」と「鵜の鳥」を掛ける。
*いひよれは出雲の/神のいつもいつも/そのこま犬のう/しろへそむく 「いつもいつも(常時)」と「出雲」を掛ける。あの子に言い寄るといつも出雲大社の狛犬のようにそっぽをむきやがる。

撮影:四国大学 / 分類:手鑑1-10-1

八ゝ 続万
 岸霰
雪ならは兎
作りてたのし
まん岸の
杭瀬に
ふる玉あられ

八ゝ 続万
 岸霰
岸にふるあられは
米に似たれともこれは
ふませし水
車にも

八ゝ 続万
 雪
きのふけふ
雪はこんこん
ふる狐野辺の
姿も化かはりたり
(「化かはりたり」を朱書「白く化たり」)

○この書き物は「続万載狂歌集」に応募した春足の狂歌の中、五点以上の点が入った物に六樹園が判を書き加えたものと思われる。どの狂歌もレベルが高く面白い。春足らしく古典を踏まえたものが多い。

撮影:四国大学 / 分類:手鑑1-10-2

ことの葉の
みちに
くらけの
おのか身は
海老の眼を
からむ
とそ
おもふ
   春足

撮影:四国大学 / 分類:手鑑1-10-3

はかりなき詞の海の
ふかけれは
海老さこ
いかて手のとゝくへき
   六樹園

○この書き物 春足が師・六樹園に対して「ことの葉の道(狂歌を含め文学全般をさす)は奥が深くなかなか極めることが出来ません」と訴えたのに対して六樹園は「詞の海は深いので深海の海老や雑魚でもなかなか手が届きませんよ。倦まずたゆまず努力せよ」と励ましたもの。応募の時のやりとりか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました