五翁百首
初夢
春たちて見し初夢のはつ茄子
娵はともあれ獏にくはせし
若水
山の井を手習ふ人のかきそめに
くむや古今のわか水のおと
鶯
歌よみのこわねまねふか古今集の
序に出ました春の鶯
百人一首によみのこされしうくひすの
楚辞にいらさる梅にきてなく
歌よみのこわねまねふか古今集の/序に出ました春の鶯
*「はなになくうぐひす、みづにすむかはづのこゑをきけば、いきとしいけるものいづれかうたをよまざりける。」(古今和歌集仮名序 紀貫之)
百人一首によみのこされしうくひすの/楚辞にいらさる梅にきてなく
*歌意 「百人一首には詠まれなかった鶯が、屈原の楚辞には歌われなかった梅の木に来て鳴いている。」
花のさかりなるを見て
見てはかり人にかたれよさくら花
手をかりをらハいけとりにせん
山花
山をぬく力もあらハさしなから
庭にうつしてみよしのゝ花
隣花
ちりかゝる隣の花に春のよの
あたひせんきを頭痛にそやむ
名所花
仙人も天狗も雲と見たかへて
梢をふむなみよしのゝ花
河辺納涼
春秋を何あらそはん世の中ハ
柳の下の夕すゝみふね
人の旅に出たるをおくりて
見つゝゆく名所古跡やいかならん
なこりをしさハこゝも海山
暁鴈
火うち箱ふたあけかたになきつれて
鳴鴈なんそほくちよりくる
雪
山をぬく力もあらハさしなから/庭にうつしてみよしのゝ花
*「力山を抜き、気は世を覆ふ」(史記 項羽本紀)
ちりかゝる隣の花に春のよの/あたひせんきを頭痛にそやむ
*「春宵一刻価千金」に「疝気」を掛ける。
春秋を何あらそはん世の中ハ/柳の下の夕すゝみふね
*万葉集の16番歌は、額田王の春秋競憐歌としてよく知られている。
雪(前ページより)
ふる雪を鵞毛の如く見るうちに
たゝすむ身さへいつか鳥はた
行路雪
うれしさを何につゝまんやとかりし
坊主合羽の雪の夕くれ
見恋
なよ竹のいもに見とれし尻目さへ
藪にらみとてきらハれにけり
逢恋
出雲なる神にいのりて逢よハゝ
日本国かひとつにそよる
住江松
ふりにける松ものいはゝ化たかと
人やひつくり住のえのきし
山里のすまひせしとき
のかれても猶うきことハやまさるの
うれしさを何につゝまんやとかりし/坊主合羽の雪の夕くれ
*坊主合羽 江戸時代、桐油紙(とうゆがみ)で作った袖なしの雨ガッパ。オランダ人のカッパをまねたもの(コトバンク)
ふりにける松ものいはゝ化たかと/人やひつくり住のえのきし
*「ふりにける松もの言はば問ひてまし昔もかくや住江すみのえの月」『古今著聞集 後徳大寺左大臣)
山里のすまひせしとき(前ページより)
のかれても猶うきことハやまさるの
ひとりこのみにあくはかりなり
酒
世中に酒といふものなかりせは
なにゝひたりの手をつかふへき
けに酒はうれひをはらふはゝきとて
とはこともはくすゝ屋ともはく ??
芳野の山の絵に
みよしのハさくらもさくら歌人の
こと葉の花も山をなす山
初瀬山の桜のことかきたるに
老僧のおほかる山のしら雲ハ
詩人もしらぬはせ寺の花
陶淵明の菊を見る絵に
杖たてゝ腰ハをらせし五斗米を
しらけしいろに庭もせの菊
栗に鶉の絵に
杖たてゝ腰ハをらせし五斗米を/しらけしいろに庭もせの菊
*「菊を采る東籬の下、悠然として南山を見る」(陶淵明)
栗に鶉の絵に(前ページより)
深草の畠をうつらのついはむを
あわやとよひて鳴子をそひく
赤人の富士ノ山見るうたに
たふたりきさまハおとらし富士のねに
ならふ山辺の赤人のうた
傾城起請かく
けいせいの牛王の起請かくたひに
からす??ねになる熊野山
志賀??
わかものに志賀の山路のさくら花
一枝たをる近江泥房
雉子
咲ころハ花の王位のいちしるく
霞の野に(?)きゝすさへたつ
妓女
うたひ舞君をはしめて見る時は
深草の畠をうつらのついはむを/あわやとよひて鳴子をそひく
*「夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里(新古今集 藤原俊成)
*「畠を打つ」と「鶉(うづら)」を掛けるか。
たふたりきさまハおとらし富士のねに/ならふ山辺の赤人のうた
*「たふたり」能・翁に出る詞。
傾城起請かく
けいせいの牛王の起請かくたひに/からす??ねになる熊野山
*起請文 神仏に誓約する言葉を書き表した文書のことで、「牛王紙」(熊野牛王宝印)の裏に書き、血判を押して奉納させたものです。牛王紙とは、烏(からす)をたくさん刷り込んだ特別の紙のことで、起請文を書くときに広く用いられていたものです。紀伊(和歌山県)の熊野神社で出したものが最も有名で、生島足島神社の起請文にも使われています。(生島足島神社に残る古文書より)
わかものに志賀の山路のさくら花/一枝たをる近江泥房
*近江泥房 「近江泥棒伊勢乞食」という言葉がある。
妓女(前ページより)
うたひ舞君をはしめて見る時は
よたれもなかし千世も経ぬへし
酒
のむとはやきけん抔にははかりぬる
酒ほとこゝろゆくものハなし
業平のうたに
業平の歌をわれらかほむるのも
こゝろあまりてことはたらはす
秋夕
蛤に嘴をしつかとはさまれて
鴫たちかぬる秋の夕くれ
都春
見わたせハ柳さくらも所から
にしきとかさる京のきたふれ
恋の哥
わか恋ハおきひのつよきこゝろにて
こかれなからにふミも出されす ??
業平の歌をわれらかほむるのもこゝろあまりてことはたらはす
*「ありはらのなりひらは、その心あまりて、ことばたらず。しぼめる花の、いろなくて、にほひのこれるがごとし。(古今和歌集仮名序 紀貫之)
蛤に嘴をしつかとはさまれて/鴫たちかぬる秋の夕くれ
*「漁夫の利」シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという「戦国策」燕策の故事から、両者が争っているのにつけ込んで、第三者が利益を横取りすることのたとえ。(コトバンク)」に登場する蛤と鴫、「心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ沢の秋の夕暮れ 西行 新古今集362」を踏まえる。「嘴」は「はし」と読む。傑作中の傑作。
見わたせハ柳さくらも所からにしきとかさる京のきたふれ
*「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」(古今・春上・五六・素性法師)
わか恋ハおきひのつよきこゝろにて/こかれなからにふミも出されす ??
*おきひのつよきこゝろ 燠火(おきひ 灰に埋めた火)が強いのに似て の意味か。
* 「わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそしらねかわくまもなし」(百人一首92番 二条院讃岐)
顕恋
南無阿ミたいろに出にけりと思ふこそ
おのかこゝろの鬼の念仏
思恋
山科のこはたの里の馬ほとに
太鼓をそうつ君をおもへは
見恋
手ひき網は(?)たもち棹もほしくこそ
いもか姿は(?)沈魚落雁
年経恋
としを経し深の床は底ふかき
川となりなんぬしもすむかに ??
名立ゝ
ひともしもくらハて神にいのる身を
恋すと名さへたゝせぬる哉
祈ゝ
南無阿ミたいろに出にけりと思ふこそ/おのかこゝろの鬼の念仏
*いろに出にけり 「しのぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで 平兼盛 拾遺集622)
山科のこはたの里の馬ほとに/太鼓をそうつ君をおもへは
*本HP「六々園漫録」の「狂歌のこころえ」参照。
手ひき網は(?)たもち棹もほしくこそ/いもか姿は(?)沈魚落雁
*本HPの六樹園自筆書き物(20230723_J13-2)によれば「てひきあみとりもちさをもほしくこそいもかすかたと沈魚落雁」
祈ゝ(前ページより)
佛をはいのるな君かのちの世に
ひよつと変は男子てはいや
寄獣恋
おもしろの駒と名つけて笑ふめり
いてやはみなむ恋忘艸
寄鳥恋
したにまつ信夫翁の身としらハ
おちてくれかししてやらんもの
名立
見そめてし時より腰ハぬけゝれと
うきなはかりハたちにける哉
思恋
小ねつミのはつかにおもひ染しより
よことよことにむねそはしれる
別恋
なとてかくわかれのあしのうこかさる
したにまつ信夫翁の身としらハ/おちてくれかししてやらんもの
*信夫翁 あほうどり
小ねつミのはつかにおもひ染しより/よことよことにむねそはしれる
*「はつか」に「廿日」と「わずか」、「むね」に「胸」と「棟」を掛ける。
別恋(前ページより)
なとてかくわかれのあしのうこかさる
首ハ自由にふりかへれとも
隔一夜
あふこそと人をかつきてよへ一夜
とちらに君か?たゝかへせし ??
雪
つちくれをなけてし御世にかたを今
雪のうへにもとゝめんそうち ??
山吹
みなしとないひそむかしも簔かりて
はなしのたねとなりし山吹
郭公
ほとゝきす二四八代のうたよみの
雲ゐにたかきなのりきゝたや
泉
むすひとる色(?)もなつかしわきかへる
水ハ岩もる中将かふミ
みなしとないひそむかしも簔かりて/はなしのたねとなりし山吹
*みなしとないひそ 「実無しとな言ひそ」(実が無いと言うな)の意味。「七重八重花は咲けども山吹のみの一つだに無きぞ悲しき」(後拾遺和歌集 兼明親王)
ほとゝきす二四八代のうたよみの/雲ゐにたかきなのりきゝたや
*二四八代のうたよみ 二✕四 八代 古今集から新古今集に至る八代集。勅撰和歌集。
七夕
南鐐の銀河をわたるたなはたの
あふ瀬もとしにたつた一片
女郎花
こゝろなきこそうれしけれ女郎花
黄金いろの外面似菩薩
霧中(?)
人麿か又篁かほのほのと
わかぬあかしの浦の朝きり
朝顔
朝顔は朝めしまへにさきそめて
さかりひもしき花にそありける
月
いかてわれ項羽か力もちの夜に
月のかくるゝ山をぬかまし
菊
南鐐の銀河をわたるたなはたの/あふ瀬もとしにたつた一片
*20230909-J88に六樹園自筆掛け軸あり。
人麿か又篁かほのほのと/わかぬあかしの浦の朝きり
*わかぬ 分からない。区別がつかない。
*「ほのぼのとあかしの浦の朝霧に島隠れゆく舟をしぞ思ふ」(古今和歌集409 よみ人しらず とも柿本人麻呂とも、また小野篁とも言われる)
いかてわれ項羽か力もちの夜に/月のかくるゝ山をぬかまし
*「力山を抜き、気は世を覆ふ」(史記 項羽本紀)
*歌意 なんとかして項羽の力を借りて、月見の邪魔になる山をも取り除きたいものだ」。「もち」に「(力)持ち」と「望月」の「もち」とを掛ける。
菊
重陽のきくをちとせと山とれの
すにつけ酒につけていはひつ
紅葉
龍田姫のかつけものかももみちはの
にしきを秋の山のこしさし
雪
ふる雪に風鶴?の毛をふいて
疵をもとめし庭のあしあと ??
千鳥
嵐よりわるさをすまの浦千鳥
なくねにさよのかへをやふりつ ??
炉火
おそろしや地火炉ついての炭火より
おこりたちぬときく後三年
除夜
よしあしハとしの夜にこそ生にけれ
ふる雪に風鶴?の毛をふいて/疵をもとめし庭のあしあと ??
*「毛を吹いて疵を求む」 1 人の欠点を強いて暴こうとする。2 人の弱点を指摘しようとして、かえって自分の弱点をさらけ出す。(韓非子 コトバンク)
除夜(前ページより)
よしあしハとしの夜にこそ生にけれ
かるもはらふもあなかまの世や
後朝
一夜寝しいもかかたみとおもふには
うつりしらみもつふされもせす
会不逢?
つめられしもゝの痣のミかたみにて
以来ふつはりあふこともなし
竹
おひしける竹ハみとりのはやしとて
かくや姫てふ盗人も出ぬ
鶴
鶴のはね白拍子ほとまふめるハ
これやよもきか島のせんさい
述懐
ぬれきぬを見にくる人のあらされハ
水かけ論のひる時そなき
ぬれきぬを見にくる人のあらされハ/水かけ論のひる時そなき
*ひる 干る。
祝
戸をあけて寝る太平のたのしさハ
眼にたにかとをとつる人なし
賀茂祭
もろかつら桟敷にさへもかくるなり
花毛氈のかものみまつり
天
盗石と伯夷をたにも見わけえぬ
天ハはるかにまたあをいもの
景山亭零餘子かみまかりける
をいたミて
かたみわけくはるとんすのひき出しも
むなしきからとなるそかなしき
花
児さくらいたつら風の手をあけて
かこめかこめにさそハすもかな
戸をあけて寝る太平のたのしさハ/眼にたにかとをとつる人なし
*かと 門(の戸)。
もろかつら桟敷にさへもかくるなり/花毛氈のかものみまつり
*諸鬘(もろかずら) 【諸鬘・諸葛】① 古く、京都、賀茂神社の葵祭で、葵と桂との二つを組み合わせて髪や冠にさすもの。また、社殿を飾るもの(コトバンク)
盗石と伯夷をたにも見わけえぬ/天ハはるかにまたあをいもの
*盗跖もしくは盗蹠(とうせき)、中国の古文献に登場する春秋時代魯の盗賊団の親分。(wiki)伯夷 伯夷・叔斉は、古代中国・殷代末期の孤竹国の公子の兄弟である。(史記)
*大盗賊の盗石と正義に生きた伯夷とをさえ見分けることも出来ない天道はまだまだ未熟者である。
月
月を見る名所おほきその中に
おやのおやなるおはすての山
雪
業平にくらへて見れハ小野山に
ふりつむ雪と炭やきの顔
やとかると梢の雪をふミなから
二階をたゝく越の旅人
吉原
よしハらを日の出ぬうちといそくのハ
きのふむかへにきしみいらとり
五十
自の像に
ものくハて居れハこそあれ能のなき
おやちかひとりふえしうつしゑ
竹
たけの子をほらんとせしを秋まてに
(この間、欠落があるか?)
自の像に
ものくハて居れハこそあれ能のなき/おやちかひとりふえしうつしゑ
*20230723-J6 軸物雅望像(自賛つき)あり。
ふることの勝母の車おし出して
こゝにはひくな姨捨の月
名所雪
白雪に名をはうつまて旅人の
はきのあとさへみやきのゝハら
河雪
隅田川雪に棹さす船頭の
あしのあかきをけさ都鳥
訪幽栖
たることをしりたるとちのことの葉ハ
此使ひこそうらやましけれ
六歌仙
うたよミのかしらとかしらうちつけし
おとハ古今の序にきこえて
酒
淵明か頭巾うらなきましはりハ
酒(前ページより)
淵明か頭巾うらなきましはりハ
酒にこしたるものやあるへき
神祇
みたらしにむきて心をおこし米
鯉のミてこそ手をもうつなれ
夏草
きのふまて雀かくれと見し艸の
わか隺はきにとゝく夏のゝ
恋のうた
恋わひてかへせし夜のころもとハ
人やしらみのうハはひをする
大師河原にまうてゝ
すゝの玉おしもみあひてまゐるなり
大師河原にたひしかハら?
書籍
嘉肴あれとそのあちわひをしらしとて
しみかくらひて見する唐本
嘉肴あれとそのあちわひをしらしとて/しみかくらひて見する唐本
*嘉肴(かこう)ありと雖も食らわずんばその旨きを知らず(「礼記」学記から)(goo辞書)
柳
こちふけはいそかしふりを柴垣に
みゝはさみする青柳の髪
凧
ものおもひあらしをいかにいかのほり
あけまきともか空をなかむる
鯛亭鰭雄のなくなりけるときゝて
養老の名にたにあえすなくなりし
人こふ袖ハこゝも瀧つ瀬
年賀
蓬莱の山わけ衣すそたかく
かゝけてのほれ鶴の毛衣
さくらをよめる
一枝をぬすみてつとふすりはたこ
ひらくや花の山のとねたち
柳
張敝かよたりのやうにさかれとも
ものおもひあらしをいかにいかのほり/あけまきともか空をなかむる
*あけまきとも 総角 子どもの髪型から子どもの意味
柳(前ページより)
張敝かよたりのやうにさかれとも
柳の眉ハたてにつくらす
春雨
芝居見のなす(?)ゝる下女のなくやうに
おともせすして春雨そふる
あすか山の花見にものして
川の名のあすかの山も淵と瀬を
あらしに見せてちる花の浪
夕立
雨こひの有心の歌に無心なる
くもか感?なかす夕たち
夜花
夜さくらを見にこよとてか山守の
あしおとすなり馬にくらやミ
松
つるはきに亀の尾さへそ出しけり
松根によりてこしをするとて
張敝かよたりのやうにさかれとも/柳の眉ハたてにつくらす
*張敞(?—前48年),字子高,西漢茂陵縣(今陝西省興平市)人。
つるはきに亀の尾さへそ出しけり/松根によりてこしをするとて
*つるはぎ 衣のたけが短いためすねの長く出ていること。(旺古)
富士山
すりはちをさかさまにせしふしの山
日本の人のみそにこそすれ
鶴
小人島汐みちくれハ田鶴きぬと
あしへをさしてみななきわたる
亀
はなち亀ひとりのきくを甲にきて
みきハに出て盃もほす
小人島汐みちくれハ田鶴きぬと/あしへをさしてみななきわたる
*若の浦に潮満ちくれば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る(万葉集 巻六919 山部赤人)
拾遺
河柳
青柳のかけか花田の帯ならハ
むすひて見まし春川の水
題しらす
?賃か礼座くちのさたもなし
をのゝゑひかにくちをしとみむ ??
月
枝まめのさやけき月にねし人を
つまはしきしてふかす秋夜
あまのはら月の出腸をなかむれハ
こよひそ秋のおなかなりける
初秋艸
秋きぬと風におとろく人よりも
すゝきくさきへさわくむさしの
よし原にて
八へひとへさくらに名ある里なれや
花の江戸町ならの京まち
あまのはら月の出腸をなかむれハ/こよひそ秋のおなかなりける
*水の面に照る月浪をかぞふれば今宵ぞ秋の最中なりける(拾遺集171 源順)
秋きぬと風におとろく人よりも/すゝきくさきへさわくむさしの
*「秋来ぬと目にはさやかに見えねとも風の音にぞ驚かれぬる」(古今集秋上169 藤原敏行)
年の末によめる
人こゝろさわく????さわかぬは
曲馬の馬に猿引のさる
月
てる月のひかりたつねて北山の
かけ法師にもはつる秋夜
月
小便をたれて雨戸をくりてゐる
つらを見てやれ月のひかりに
雪
炭うりか吹たふされしあと見れハ
あらしもくろき雪の曙
人こゝろさわく????さわかぬは/曲馬の馬に猿引のさる
*20230909-J90 に自筆掛け軸あり。「人こゝろさわくしはすにさわかぬは曲馬の馬に猴ひきのさる」
小便をたれて雨戸をくりてゐる/つらを見てやれ月のひかりに
*くりてゐる 「くる」 2 送り動かして移動させる。「雨戸を—・る」(goo辞書)
気づき
○「五翁百首」と表書きされた狂歌集である。筆跡は春足に相違なく、春足が師・六樹園(石川雅望)の代表歌を書写したものと思われる。その原本は定かではない。粕谷宏紀著『石川雅望研究』文政十二年の項(P321)を見ると「この災害(文政十二年三月二十一日に発生した江戸大火)によって『雅言集覧』の稿本をはじめとして、万巻の蔵書も一切灰燼に帰した。雅望自身の狂歌集が後世に残っていないのはこの時同時に消失したものと思われる。」とのことである。とすれば、この筆写本は非常に貴重な資料と言えよう。
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