書き物

(大田)蜀山人 市川團十郎を称えた七言絶句

撮影:立石恵嗣 / 分類:20230723-J15

暫ゝ三升柿素袍颯開切
幕舞台?紛ゝ張子首如
雨一抜市川大太刀
       蜀山人

語注・気付き

*切幕 ここでは揚げ幕(花道の出入り口)のこと。
○暫 歌舞伎十八番の一つ。蜀山人とも親交のあった、五代目市川団十郎が制定したといわれる。悪人の清原武衡が成田五郎に命じて加茂次郎義綱らを打ち首にしようとするとき、揚げ幕の内から「しばーらーく、しばらく、しばらく、しばらーくうー」と声を掛け、颯爽と現れるのは、市川團十郎扮する鎌倉権五郎景政。その扮装は三升の紋入りの柿色の素袍に大太刀を佩いている。三升の紋、柿色はいずれも市川家のシンボル。景政が大太刀を抜きあたりを一払いすると張りぼての悪人どもの首が雨のように転がるというしくみ。七言絶句。袍(hou)、ゝ(?ou)、刀(tou)で押韻。

徳田武氏ご教示分

暫暫三升柿素袍
颯開切幕舞臺囂
紛々張子首如雨
一抜市川大太刀

訓読

暫(しばら)く暫く 三升(みます)の 柿素袍(かきそほう)
颯(さつ)として切幕(きりまく)を開けば 舞臺囂(ぶたいごう)たり
紛々たり 張子(はりこ)の 首(こうべ)は雨の如し
一たび抜く 市川の大太刀(おおだち)を

現代語訳

「暫く、暫く」と三枡の紋所の柿色の素袍で現れ、
さあーっと切幕を開けば、その舞台姿に客席が囂々と騒ぐ。
敵役の張子の首を雨のように切り落とす。
一たび市川団十郎が大太刀を抜いて。

コメント

〇狂詩の七言絶句。
〇韻字 袍・囂・刀(下平声四豪)。
〇暫 歌舞伎十八番の一。皇位へ即こうと目論む悪党の清原武衡が、自らに反対する加茂次郎義綱ら多人数の善良なる男女を捕らえる。清原武衡が成田五郎ら家来に命じて、加茂次郎義綱らを打ち首にしようとするとき、鎌倉権五郎景政が「暫く~」の一声で、さっそうと現れて助ける。その掛け声である。
〇三升 市川団十郎の紋所。
〇柿素袍 団十郎の装束。柿色の素袍である。
〇紛々 張子の首を多く斬る様。
〇大太刀 この芝居に於ては団十郎の大太刀姿がクライマックスである。

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